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語られなかった東日本大震災 ~Episode 22~

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『「2万人近く」と「14人」』

先日の3月4日、僕は宮城県名取市の閖上(ゆりあげ)地区を取材で訪れていた。
予定していた撮影を終え、
最後にこの地区を一望できるような場所はないかと
ある中学校へ足を向けた。

「誰かいるか見てきます」

職員に撮影許可を取ろうと、僕は車から降りて校舎に入った。
しかし、海から5kmほどしか離れていない中学校の内部は、
既にがれきは片づけられているものの、
窓ガラスは割れたまま。人の気配など感じられない。
避難所になっていたときの張り紙はまだ残されたままだった。

探すのを諦めて戻ってくると、カメラマンと音声が車から降りていた。
姿を見つけると、2人は門の近くに置かれた机を、静かに見つめている。

しばらくの間、机に書かれたメッセージから目を離すことができなかった。
陽は既に傾き、風が冷たく吹き付ける。

隣の机には、花や供え物のお菓子が置いてあった。
花はまだ新しく、今でも人が訪れていることがわかった。

「この中学校だけで14人も亡くなったんだ…」

心の中でつぶやく。
振り向くとカメラマンの目にも涙が溜まっていた。

「震災から1年でたくさん報道されても、東京の人は2週間もすれば忘れてしまうでしょ」

中学校へ立ち寄る前に訪れていた、仮設商店街。
40代前半だろうか、働き盛りにみえる男性店員は、こちらがカメラを止めた後にそう呟いた。

僕はなんと答えていいのかわからず、曖昧に返事をした。
すると男性店員は素早く目を逸らした。
僕に不満をぶつけても仕方がないとでも思ったのだろうか。
実のところ、被災地を訪れたのは、去年10月以来初めてだった。
5ヶ月の間震災前と変わらぬ生活を送ることで緩んでいた僕の心に、
男性店員の言葉は静かに突き刺さった。

東日本大震災からまもなく1年。
死者1万5854人 行方不明3203人 (2012年3月8日現在・警察庁まとめ)

「2万人近くの死者・行方不明者」

たしかに言葉でまとめれば、こうだ。

メディアは、東日本大震災の被害の大きさを、これでよく表現する。
しかし、恥ずかしい話かもしれないが、
僕はこの「2万人近く」という数字を見ても、別に悲しいとは感じない。

しかし、机に書かれていた「14人を忘れないで」という言葉に、僕の胸は痛んだ。

「忘れないでほしい」

あの小さな机の上にも書かれていたこの言葉が、被災者たちの一番の願いなのかもしれない。
今、我々メディアはこぞって「震災から1年」という節目を報道している。
それ自体は決して悪いことではない。
しかし、結局は一過性の「お祭り」に過ぎないのではないか。

あの中学校で命を落とした「14人」がいたことを忘れない。
それが今の僕にできることだ。

文責:制作部 杉井真一

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